市場成長のフェーズと戦略方針
経営課題の中心として「経営戦略」がありますが、技術経営における戦略の考え方は、市場成長のフェーズ(以下、市場フェーズ)によって考え方を変えることも必要です。
ここで市場フェーズを「市場創造期」「市場成長期」「市場成熟期」と分けてみます。
「市場創造期」は、これまでにない新しい商品を提供して市場(→ビジネス用語のマーケット)を作っていくフェーズとします。これまでにない商品を提供するのですから、市場の欲しがるもの(=顧客価値)は手探りであり、それがどこにあるかを踏まえながら研究開発し、技術を商品化する必要があります。
次に「市場成長期」は、既に商品が市場に投入されていて、市場がある程度見えてきている、すなわち、顧客価値が見えてきている。しかしながら、提供する商品と顧客の要求が相互作用して両者が変化している(定まった顧客価値がない)フェーズと考えます。「相互作用して両者が変化」とは、例えば、市場のニーズに応えて新商品が提供される、提供された商品によってニーズが変わるといった変化です。
そして、「市場成熟期」は、多くの商品が提供されて市場が形成されているフェーズです。どんな商品を出していけば売れるかが認識されている、つまり、最終的に市場に提供すべき商品価値が確立しています。このフェーズでは、市場に商品を提供するまでの役割分担(バリューチェーン※1)は形成されているので、どの役割で最大の付加価値を提供できるかと考えます。
これらの市場フェーズと戦略方針を整理したものが下図(市場フェーズと戦略方針)です。
以下では、ここで出てきた基本的な概念(キーワード)について説明します。
顧客価値
同じ製品であっても、顧客に提供する(目的の)価値によって、その商品(製品とは別の意味で使用しています)の価値が変わってしまうものもあります。自動車の例でいうと、下図(提供価値の視点)のような「価値」が考えられます。「自動車」というモノ(製品)において、どんな欲求にこたえるのか、すなわち、どのような価値を提供するのかによって、顧客からみた商品のもつ価値が変わる可能性があります。これは経営戦略として価値は創造する部分があるということです(価値創造)。
製品アーキテクチャ
製品の研究開発や生産に関する方向性を決めるもので、技術を武器にして経営を行うにあたり最も重要な概念の一つとなります。日本の自動車産業が国際競争力を維持し、電気産業が下降線を辿ってしまった原因を説明することができます。少ない文字数でまとめると下図(製品アーキテクチャ)の通りになります。
技術系企業がビジネスをするにおいて理解しておくべき内容が多く含まれるキーワードなので、詳しい内容は追って説明する予定です。
バリューチェーン
顧客に価値を提供するまでに必要な付加価値を積み上げていくプロセスを意味します。川上から川下へのつながりは、サプライチェーンと似ていますが、バリューチェーンの場合は、どんな付加価値を積み上げているかの観点でみます。技術を適用する際に、バリューチェーンのどこで最大の付加価値を提供できるかの見極めが経営戦略として重要となります。
まとめ
優れた技術を保有していても、市場フェーズを踏まえた経営戦略を持たないと、優れた技術がヒット商品になる可能性は低くなってしまいます。保有技術が埋もれてしまわないためにも「技術経営について考える」必要があります。
最終的に「市場フェーズと戦略方針」へ繋がっていくように、戦略策定のベース知識について、技術経営を「競争力」「持続性」「イノベーション」に整理分類して、それらを更に深堀して課題を考えていきます。
参考
- ※1:通常、サプライチェーンと呼びますが、ここでは提供価値を生む流れと見るためにバリューチェーンと呼びます。また、企業経営理論の競争戦略パートに説明される「社内のバリューチェーン」とは区別します。
- 技術経営について考える(1)
次回に続く(2022/1/26)