顧客価値の種類と特性を理解していきます。これは顧客ニーズの理解、すなわち、顧客が何にどの程度の対価を払ってくるれるか(付加価値)の理解に繋がります。さらに、この特性は「製品アーキテクチャ」や「組織デザイン」とも強く関わり合い、最終的には、技術をどんな商品・サービスとして世の中に提供していくかの技術経営戦略に繋がります。技術経営において技術への向き合い方を考える重要な要素と言えます。
顧客が商品に期待する価値には「機能的価値」と「意味的価値」があると考えられます。以下では、これらの定義、特徴、何にどう関わっていくのかを解説していきます。
機能的価値
「機能的価値」とは、定量的に評価できる価値のことです。自動車におけるエンジンの馬力やトルク、パソコンにおけるCPU性能やメモリの容量、テレビにおける画面サイズなどが相当します。
この価値は数値化して比較できることが重要な意味を持ちます。比較できるということは、その大小によって価値が決まるということです。そのため、価値を向上させるために、その数値を上げる技術開発をすることになります。
しかし、顧客ニーズには機能的価値の数値に一定の閾値があります。ある水準の機能を満たせば、顧客は満足すると言うことです。したがって、その閾値を達成すると閾値以上の超過分に対する対価は少なくなります。これは、顧客価値の頭打ちと言われるものです(下図)。
自動車においては、高速道路を定員乗車で巡航できる馬力があれば機能的には不足はなく、信号待ちからスムースに加速できれば、十分なトルクがあると感じるでしょう。パソコンにおいては、WEB閲覧やメールの受送信、オフィスソフトの快適な利用が可能なCPU速度やメモリ等容量があれば、多くの人にとってほぼ満足できる性能といえます。
このように、機能的価値においては、顧客価値の頭打ちが発生しやすいので以下のように付加価値(対価)の減少に至ってしまうことが少なく有りません。
- 価値が定量的に比較可能
- 価値の数値的な向上
- 数値向上のための技術開発
- 価値の数値が顧客ニーズを超越
- 顧客価値の頭打ち
- 技術のコモディティ化と価格競争
- 付加価値(対価)の減少
意味的価値
「意味的価値」は、顧客が「機能」の良し悪し以外の部分に対して払う対価に対応する価値を示します。自動車においてはエンジンのフィーリング、乗り味、あるいはデザインなど、パソコンにおいてはOSの使いやすさやデザインといったものが相当します。
これらは、定量的に示すことができず、定性的な良し悪しで評価されることになります。ただ、その定性的な評価には絶対的な良し悪しの軸がないことが多く、すべてを一つの軸で比べることが難しくなります。結果として、価値を向上させるための方向性が一つではなく、顧客価値の頭打ちという状況に陥りにくくなると考えられます。
「意味的価値」は、「こだわり価値」と「自己表現価値」に分解して考えることができます(参考文献1)。これは、顧客価値の多義性を考えることです。
「こだわり価値」とは、顧客の特別な思い入れにより商品が高く評価される価値を示します。自動車においては、エンジンのフィーリング、乗り味、あるいはデザインなどが相当します。自身に向けた満足感、即ち、「内向きの価値」と言えるかもしれません。
他方、「自己表現価値」とは、他人に対して自分を表現できたり誇示したりできることに関する価値です。自動車においては、ステイタス性やカッコ良さが相当します。ブランドも含まれるかもしれません。他人に表現することから、「外向きの価値」と考えることもできます。
この「機能的価値」と「意味的価値」は、商品特性からくる場合もありますが、一方で、商品戦略やマーケッティングによって商品に「意味的価値」をもたせることも可能と考えられます。現在では「意味的価値」をもつ代表格の自動車においても、当初のT型フォードは、移動手段として画一的に大量生産して低価格を価値とする商品でした。後のマーケティングによって、ステイタス性などを市場に浸透させていったと考えられています。
技術経営戦略と意味的価値
「意味的価値」を持つ商品は、価値を向上させるための方向性が一つではなく、かつ、比較が難しいため、顧客価値の頭打ちという状況に陥りにくくなると考えられます。これは、技術を如何に「意味的価値」につなげるかが、コスト競争に陥ることなく、高い付加価値(対価)を継続するための技術経営戦略であるとも言えます。
参考
- MOT[技術経営]入門、延岡健太郎著、日本経済新聞出版
- 技術経営について考える(4)
以上(2022/3/27)