商品開発について、以下の項目を考えて行きます。
- 潜在ニーズと顕在ニーズ
- マーケットインとプロダクトアウト
- 技術と商品の整合
- 死の谷等
潜在ニーズと顕在ニーズ
商品開発においては、顧客ニーズに合致させる必要がありますが、顧客ニーズには内容の大きく異なる顕在ニーズと潜在ニーズがあります。このため、競争力を確保するためには、企業はこれらニーズをしっかりと認識して、対応していくことが必要です。
顕在ニーズとは、顧客が明示的に求めるニーズのことです。顧客が具体的かつ明示的に表現することができ、マーケティング調査などで把握できるニーズです。
一方、潜在ニーズは、商品・サービスに接して求めていたと気づくニーズで、顧客は気づいていないため明確には表現できないので、通常のマーケティング調査からは把握するのが難しいと考えられます。
企業の対応の課題
顕在ニーズは、顧客の欲しいものが明確になっています。従って、合致する商品を提供できれば、売れることが期待できます。しかし、以下の課題が存在します。
- その市場が十分に大きなものかは不明
- マーケットイン戦略となり差異化する技術の創出が難しい(※)
- 市場が小さいと過当競争になり価格競争になる恐れ
即ち、顕在ニーズ→マーケットイン→技術的差別化が困難→可能競争→コモディティ化・価格競争といった悪い流れの可能性も低くないということになります。
お菓子など、競争が多く市場規模が小さい商品であっても、商品開発を頻繁におこなうことが前提の商品であれば、マーケティング調査により顕在ニーズに対応していくのも悪くないのかもしれません。
一方で、潜在ニーズは顧客の欲しいものが分からないため商品開発の時期が未定で、技術開発に優位性を積み上げる時間をかけることが可能です。また、潜在ニーズを掘り当てれば、技術の優位性を生かして先行者利益を確保することが可能です。ウォークマンのように、市場規模が大きなものであれば、莫大な先行者利益や企業ブランドを得ることもできます。
しかし、プロダクトアウトを潜在ニーズに結びつける戦略策定が不可欠となります。
(※)時間をかけて優位性を積み上げてきた技術ではなく、ニーズに合わせた既存技術の組み合わせなど
企業の行動選択
多くの場合、それが過当競争の可能性があっても、企業は顕在ニーズに合致した商品を提供する行動を取ります。マーケットを丁寧に検討して潜在ニーズを掘り起こせば、優位性を発揮できる技術を用いたプロダクトアウトにより、大きな先行者利益の可能性があるはずですが、あまり簡単ではないように見えます。何が選択を妨げているのでしょうか?
まず、顧客第一を掲げていると、顧客からの直接の声(顕在ニーズ)が優先され、それに合致した商品を開発する力が働きます。更に、日本企業の経営戦略は、集団経営のコンセンサスによって判断されることが多いと考えられる。仮に、潜在ニーズを捉えた経営者が声を上げても、顧客が明示的に要望はしておらず、市場マーケット調査などによる数値的なデータも難しい。従って、リスクや責任を考えるとコンセンサスを得ることは難しく、結果として、顕在ニーズに落ち着いてしまうのではないかと思われる。
これが経営者の判断でなく、営業担当者の立場であったとすると、社内外マーケット調査による結果が得られる顕在ニーズへ対応の企画は決裁が容易であり、社会背景・生活環境等から間接的(直感的?)に推測(仮説)せざるを得ない潜在ニーズへ対応の企画は決裁が困難であるということになる。
潜在ニーズを掘り当てるには、古のソニーのように、多くの失敗を重ねても膨大な潜在ニーズを探し当てうという企業風土があるか、もしくは、アップルのスティーブンジョブのように、マーケット調査を信じず、自分の感性だけを頼りにするカリスマ経営者が必要なのではないかと感じます。
次回は、「マーケットインとプロダクトアウト」を予定しています。
参考
- MOT[技術経営]入門、延岡健太郎著、日本経済新聞出版
- 技術経営について考える(5)
以上(2022/4/24)