スモールビジネス(中小企業等)において、SDGsの現実的なとらえ方とその対応を、少し斜めに構えた視点から考えてみます。なお、正面から実践的に取り組むにあたっては、一般社団法人中小企業診断士協会が「中小企業のSDGs 経営推進 マニュアル に関する調査研究報告書」を作成しているので参考になると思います。
SDGsとは
SDGs(Sustainable Development Goals)とは「持続可能な開発(=将来世代のニーズを損なわずに現代世代のニーズを満たす開発)を示す目標」のことです。世界の危機的状況を「環境・社会・経済」の3側面から包括的に課題を解決する具体策を示したものであり、以下の4点を明確にしています。
- 「世界共通で、最優先で解決すべき課題」の抽出
- 「望ましい将来像」を明示
- 「17のゴール(達成目標)、と目標を具体化する169のターゲット(下位目標)、さらに、達成状況をモニタリングするための232のインジケーター(指標)」を設定
- 「2030年を達成年度」と設定
少し斜めに構えてみると、以下の通りです。
- 世界の不公平(不公正)是正に向けたゴール設定
- 17のゴールの間にはトレードオフが生じる可能性
- ゴールを絞り、事業に関わるゴールから理解してみる
SDGsの違和感
ここでの「SDGsの考え方」は以下を出発点としています。
- SDGsは「大事だから」「必要だから」といった精神論ばかり?
- 「大きな商機をつかむ」とは具体的に何か?
- 「SDGsには大きな市場規模がある」らしい。具体的な利益を生むスキームは?
- 「SDGsにビジネスで貢献する」ではなく「SDGsでビジネスに貢献する」ではないか?
SDGsとCSR等との関係
似たような活動に、CSR, ESG, CSVなどがあります。これらとSDGsは、プロセスとゴールの関係にあると理解します。
大手企業のSDGs
経営者がSDGsを気にする理由(「SDGs入門」より)としては、以下の意識があると言われています。
- 新事業開発や既存事業の拡大につながりそう
- 新たな人材獲得のための武器になりそう
- コミュニケーションツールとして有効だ
これらの観点をベースとした取引先からの要望が来る可能性があります。
中小企業のSDGsへの取り組み
環境省の活用ポイントとしては、以下の4点があげられています。
- 企業イメージの向上(明日の飯の種にできるのか→人材確保)
- 社会課題への対応(経営者の意識に依存する。ビジネスがどう繋がるか→経営リスク回避、地域の信頼性獲得)
- 生存戦略になる(具体性に欠ける→取引条件の先読み)
- 新たな事業機会の創出(地域との連携、新しい取引先や事業パートナーの獲得、新たな事業の創出→イノベーションやパートナーシップ)
なお、()の内容は、斜めに構えた捉え方と、その解釈です。この環境省の活用ポイントを咀嚼すると以下の3項目となりそうです。
- ツールとしての利用:自分たちの事業がSDGsに絡んでいることを認識・アピール
- 大企業の要求に応えて取引を拡大する
- 17ゴールの課題意識をターゲットセグメントに提示して、対応サービス・商品に共感させる(マッチポンプ的マーケティング)
- SDGsに係る補助金・助成金を得る
- リスク対応:成り行きではない準備の必要性
- 2030年までの時間的制限の中で、どこかで世の中のルールがSDGsの方へ転び顕在化する(外部不経済が内部経済に変化する方向性・時期感)
- チャンスの検討:チャンスとリスクの先読みの必要性
- 17ゴールの互いの関連性を見て相反する方針・手段を回避する。大きな視野で俯瞰的に物事を見る。いいこと=何かにおいて悪いこと
必要な考え方
行動の考え方は以下の通りとなります。
ツールとして利用
- 17ゴールを目指すのは難しいので全方位的な取り組みを考えない
- トレードオフも存在する
- リソースがいくらあっても足りない
- 取引先からの要望:サプライチェーンの一部としての活動
- 今の事業の中から考える、少し修正してみる
将来の事業リスクの回避
- リスクと不確実性を理解して、リスクを正しく評価する
チャンスの獲得(事業展開の方向性)
- バックキャスティングで考える
リスク評価の例
等期待値曲線を発生確率と危害(影響度)の度合いの2軸でプロットして、事象をどこに配置するかで優先順位付けをおこなう方法があります。この場合、同一の等期待値曲線上にある事象は同じ期待値を持ちますが、事象発生の特性(確率の大小と影響度の大小の組み合わせ)は大きく異なり、経営戦略における価値基準を取り入れることができます。ただし、現実的には、将来のあるべき姿が示されても、それらの確率(Probability)と影響度(Impact)については明確となっていない場合が多く、自分たちで(自分たちの立場で)見積もる必要があります。
バックキャスティングの例
SDGsのゴールやターゲットにおいては、積み上げの不確実性の高い2030年のゴールを見るので、目指す場合にはバックキャスティング的な思考を取り入れるのがふさわしいと考えます。
SDGsの活用イメージ
例えば、水素社会が到来するとして、今後の事業展開をリスク評価とバックキャスティングを合わせて考えてみます。
SDGsは外部不経済のリスクを示している
SDGsは、「世の中の不公平(不公正)な状態の是正」を目指します。その大きな幹の一つが、「フリーライドを許さない」「外部不経済の内部経済化」です。すなわち、意識・無意識にかかわらず、外部不経済を享受している事業者にとってのリスクを明示していると認識すべきです。
投資家がSDGsを意識する(ESG投資など含む)大きな理由の一つは、投資先企業が外部不経済のリスクを有していないかを見極めるためと考えます。(2021/9/28追記)
SDGsの世の中で損をしないために
気候変動対策を含め、SDGsの御旗の下、世の中のルールが大きく変わりつつあります。標準化をはじめとして、利益を生む仕組みづくりが作られつつあります。それは、グローバル企業にだけ関わるものではなく、それら企業とサプライチェーンで繋がっている中小企業にとっても他人ごとではありません。例えば、新たな炭素税の導入は、すぐそこまで迫っています。
このような流れの中で、痛い目に合わないためには、以下の行動が必要と考えます。
- 大企業は、積極的にルール作りから関わっていく
- 中小企業は、将来リスクを認識して今から適応策を考える
ロゴやバッジの利用について
街中やホームページで見かける「SDGsのバッジやロゴ」の利用方法・ルールは気になるところです。利用ガイドラインはありますが、簡単にいうと非営利で改変しなければ、利用は自由と言えます。
- 申請・許可が必要な場合:資金調達や商業用途(営利目的)
- 申請・許可の方法:国連による事前許可とライセンス契約
詳細は国連広報センタのホームページを確認してください。「SDGsポスター」「SDGsロゴ」「17のアイコン」「SDGsカラーホイール」のダウンロードも可能となっています。
以上(2021/9/24、2022/2/4更新)